Kirschbaum

ハマっているモノについて徒然語るblog

Fate SS・今、生きていることに感謝を

インターネットアーカイブから過去のWebサイトを発掘したので、ネットの海に消えたはずのSSを少し掲載しようかと。
このSSの執筆はFate/stay night発売後、Fate/hollow ataraxia発売前に執筆した物(時期的に2005年のはず)なので、今現在のFate界隈の設定とは乖離がある可能性があります。
内容としてはHevens Feel Trueエンド後を描いています。

また、誤字脱字は当時のままにしておりますので、そこらへんは見逃していただけると。



==== 今、生きている事に感謝を

1.

 なんで、彼女はここにいるのだろう。わけが分からない。しかも、夜の街角を私を尾行するようにじーっと見ているし。
 ちょっとため息。最近の彼女の行動は不可思議なところが多すぎる。
 先輩とのデートの帰り道には必ずといっていいほど視界の隅にあの特徴的な髪が目に映るし、最近先輩に教えてもらって料理を作っているみたいだし、先輩と二人で話す機会が多いみたいだし。
 ……先輩がらみが多いような……ううん、たぶん気のせい。私と彼女はパートナーであり、唯一無二の親友だもの。そんな事なんてあるはずがない、多分……。
 商店街からの帰り道。『晩酌のおつまみが足りない』と叫んでいた藤村先生の為にスーパーでちょっとした買い物をしてから歩く道のり。今日は姉さんもいるから、ちょっと多いかな? と思うくらい食材を買ってきていたんだけど、どうやら足りなかったみたい。先輩は側で酔いつぶれているから、飲めない私が自動的に買い物に抜擢された。姉さんも明後日には帰ってしまうから、私も姉さんと一緒に色々話したかったんだけど……。
 ふと後ろを振り返る。尾行の姿はもうない。まぁ、彼女の足は速いから私が少し前を向いている間にどこかにいくなんて、たいしたことでもないと思う。
 でも、普段着であんな走りをしていると、ズボンが破けてしまいそうな気がするんだけど……。

2.

「ただいまー」
「あぁ、桜ちゃん。おかえり~」
 千鳥足でへらへらと近寄ってくる物体が一つ。一直線の廊下を右に行ったり左に行ったり戻ったりしている。上機嫌の顔で私を出迎えたのは、藤村先生だった。
「ごめんねぇ、春とはいえまだまだ夜は寒いでしょう??」
「そうでもないですよ。昨日までは確かに寒かったですが、今日は暖かい風が吹いていたみたいですから」
 廊下に上った私の買い物袋を覗く。言っている事は私を心配しているんだろうと思うんだけど、やってる事が食い意地張った虎(先輩談)なんだから、本当に心配しているのか少し不安。
「おを! チータラだ! 桜ちゃんナイスチョイス!」
 いきなりガバっと顔を上げたかと思うと、目の前でそうやって叫んだ。一瞬意識が遠のく。お酒も飲んでいないのに頭がくらっときそうな大声だった。
 そのまま先生はイカ付きチーズだけを持っていってしまった。「チータラ♪ チータラ♪」となにやら歌になっていないような歌を歌いながら。
 しばらくぼ~っと突っ立っていたけれど、居間の方で愉快痛快というような笑い声を聞いて我に帰る。
「すみません、今帰りました」
「おかえり~」
「おかえりなさい、サクラ」
 たぶん、その場は混沌を擁していた。いつもシャキっとした姉さんが赤面でとろんとした表情になっている。いくら春だからって、服の襟元から下着が見えるのはどうかと思います。女として。藤村先生はいつもとあんまり変わりないと思いきや、いつもは「勿体無いから」とちびちび食べる某高級洋菓子店のプリンを、カップごと一気に傾けて飲んでいた。食べ物を粗末にするような先生ではなかったけれど、一個千五百円するプリン(この場合はプティングって言った方がいいかも)をそんな風に食べる先生の姿を見ると、背筋に悪寒が走り出す。藤村先生がいる限り、私のパート代と先輩のバイト代だけでやっていける事はないと思う……。
 そして、私を今まで尾行していたと思しき人物はというと。
「どうです、サクラ? サクラも一緒に飲んでみては?」
「ちょっと、ライダー! 眼鏡ズレてる!」
 一人正気の私は何とか正面からライダーの目を見ないようにしながら、ずれた眼鏡をなおした。そんな様子を見て意味もなく爆笑するほかの二人。先生はともかく、姉さんはこの魔眼の恐さを体感しているはずなのに……アルコールとはこんなにも人を変えてしまうのかと思うと、ちょっと……いや、かなり悲しくなった。
「もう、しっかりしてよライダー。なんであなたまで酔ってるのよ」
「いえ、私は酔ってなどはいませんが」
「酔ってる人は皆そんな事言うの。別に裸になっても構わないけれど、眼鏡だけは気をつけてよね」
 私を尾行していたかどうかを聞こうと思っていたけれど、これでは聞くこともできない。いや、聞いたところでまともな答えが返ってくるとは思えなかった。
 外野から「おー! ライダーの裸ー! 脱げー!」という声が聞こえてきたのを一睨みで黙らせて、買い物袋と共に台所へと立つ。買い物袋を少し小さいダイニングテーブルに置いて、さて何を作ろうかと思案したときに、ソレが視界に入った。
「……って、ええぇっ!」
 台所。ちょうどコンロ台の床になにやら大人の半分くらいの物体が黒い影を落としている。流しの電気をつければ、少しは全体像が浮かび上がるかもしれないけれど、なんだかそれがいやに怖い。時々思い出したようにビクビク動くそれは、何かの生き物のようだった。
「どうしました、サクラ?」
 大声を出した私に朱色に染まった顔のライダーが近づいてきた。
「ちょ、あの、えっと……」
「どうしました?」
 一回大きく深呼吸。出来る限り、ガス台のそれには目を向けないように、吐息と共に言葉を紡ぐ。
「あの、ガス台の下にうずくまっているのは、何?」
「ガス台?」
 背を向けている私を押しのけて、ガス台の方へと行くライダー。どうやら、彼女もこの事態には気づいていなかったらしい。正体不明の物体に恐れる事もなく向かうのは、さすがサーヴァントといった具合だろうか。
「サクラ」
「何? それは何だったの?」
 少しの間沈黙が降りた。いや、側では大笑いしている女性二人がいるんだけれど。その二人の声がBGMのように霞の彼方へ消えるくらい、私とライダーの間だけで沈黙となっていた。
「あなたは、いつから士郎の事をモノとして判断していたんですか?」
 聞いた瞬間、たぶんライダーを物ともせずにガス台床にひざをついていたかもしれない。
「先輩! 大丈夫ですか!? 先輩!!?」
「ん……あぁ……桜か。いつ帰ったんだ?」
「今さっきです。あぁ、それにしても先輩をこんな未知の物体になるまでお酒を飲ませるなんて、なんて事を……」
「大丈夫だって……と、もうこんな時間か。少し、部屋に戻って休んでいるよ」
 立ち上がって今の時計を見た先輩は、少しフラつく足取りで、居間を出て行こうとする。そんな先輩を黙って見ていられる私ではない。私は駆け寄ると、先輩の体を支えながら行こうとしたが、ちょっと強い力でそれを拒否した。
「いや、桜は藤ねえと遠坂をちょっと見ててくれ」
「では私が」
 今の今まで私の混乱ぶりを見ていたライダーが、私に代わって先輩を支えた。
「ちょっと、ライダー。あなたも酔っているんだから、無理なんてしないの」
「しかしサクラ。あなたがいないとこの場を切り盛りできる人間がいなくなります。士郎は部屋へ運んで少し様子を見るだけですから、大丈夫でしょう」
「そうだな。悪いけど、桜。後は頼んだ」
 そう言うと、先輩はライダーに支えられて居間を出て行った。置いていかれた私をあざ笑うかのように、おつまみ会社のマスコットが買い物袋から顔を覗かせていた。

3.

 私は先輩が寝ているかもしれないという可能性を無視して、お茶漬けを作った。部屋まで送ったであろうライダーの帰りが未だにない為、様子を見るのもかねている。
 ちなみに、私の手作りおつまみを楽しみにしていた酔っ払い二人は、完璧に意識の外だった。ブーイングを起こした二人を、やはり睨んで黙らせる。藤村先生が「桜ちゃんの後ろになんか黒いものが見えるよぅ」と言っていたが、まさかアンリ・マユじゃないだろう。
 大体、ワイン時々日本酒の姉さんはともかく、焼酎日本酒を浴びるように飲んでいる藤村先生のおつまみを作れるほど、私はまだ和食を極めてはいない。ここで私のお茶漬けで先輩が回復してくれたら、藤村先生達も喜んでくれて、一石二鳥だ。
 なんて支離滅裂な思考を繰り広げながらも、私は先輩の部屋を目指してお盆を持って歩いていく。もうすぐ日付が変わる。深夜の廊下は嫌に寒くて暗い。ここ数日の先輩とライダーの行動を考えると、視界がいっそう暗くなっていくような気がした。
--まさか先輩。私じゃマンネリしてきたから、ライダーの大人の肢体の虜になっちゃったんじゃ……。
 私の頭の中で、ライダーと先輩があんな事やこんな事をしている映像が浮かび上がる。ライダーは大人のテクニックを駆使して、あの手この手で先輩に快楽を与えていく。でも頂点に達する寸前のところで止めて、まるでなぶるよう。それこそ、生前の彼女の醜い姿の象徴である蛇のように、じわじわと先輩を淫靡地獄へ誘うのだ。
「……そんなの、絶対だめ……」
 怒りを押し殺しつつ、先輩の部屋の入り口へ立つ。
 と、なにやら部屋の中から声が聞こえる。私は気づかれないように、そっと襖に耳を当てた。
『ライダー、もう少し右。あーっと、そこそこ』
『ここが良いのですか?』
『うん、それ以上なると、ちょっとヤバいかもしれないし』
『そうですか。それじゃあ、このままでイキましょう』
 私はお茶漬けを乗せたお盆をバランスよく右手で持ったまま、左手で襖を思いっきり開けた。
「ライダー! 私の先輩にこれ以上卑劣で淫靡な行為に及んだら、魔力の供給切るわよっ!!」
 そこで快楽を貪る様に事に及んでいると思しき二人は、部屋の中にはいなかった。
「あちゃ~、見つかったか」
「最近のサクラは、リンやタイガでは押さえられないと言ったでしょう」
 部屋の中というよりは、窓の外。ちょうど、屋根の上あたりに二人が立っていた。
「見つかった、じゃありません! 先輩も、夜風に当たりながら屋根の上で青姦なんて事がしたいなら、ライダーに頼まずに私に相談してくださいっ! 先輩になら私、公園で荒縄で縛られて放置プレイだってできるんですから!」
「ぶっ! お、うわ!」
「士郎、しっかりしてください」
 屋根の上でバランスを崩した先輩を助け起こしながら、ライダーはこちらに向かっていった。
「サクラが何を勘違いしているのかは大体分かりましたから、そんな卑猥な単語を大声で言わないで下さい。近所に丸聞こえですよ」
「近所の人なんてこの際どうでもいいの!」
 駄々っ子みたいになっちゃってる自分を何とかできるわけでもなく、まるで逆恨みをしているかのようにライダーを睨みつけてあげた。が、やっぱり藤村先生みたいな効果は無いらしい。魔眼では、向こうが遥かに上を行っているんだから、仕方が無い。
 先輩を助け起こしたライダーは、そのまま窓から部屋の中へと入ってきた。その服装は特に乱れたところも無く、今まで私が妄想していたような事は無いように思えた。
「士郎、サクラを居間へ連れて行きます。あとは一人でもできるでしょう?」
「あぁ、よろしく頼む」
 ライダーは私に向かって微笑むと、居間へ行くように言った。まだ収まっていない私の怒りも、その笑顔を見ただけで飛んでしまった。魔眼殺しの眼鏡をかけてはいるものの、元は強力な魔眼持ちである。少しくらいその余波が出てきているのかもしれない。
 私は誰にも食べられなかったお茶漬けを載せたお盆を持って、もと来た廊下を引き返した。

4.

 その光景は、幻想的という他無い。
 屋根につけられた明かりは、今が深夜であるという事すら忘れさせてくれる。
 夜の闇とライトの光と、まるで芸術家が作ったようなそのコントラストに、さらに美しいこの庭の景色が浮かび上がっていた。
 自分は今、何故こんな光景を見せられているのか。
 こんなに美しい光景は、先日皆と行ったお花見の桜。あの光景も、今目を閉じれば瞼の裏に瞬時に思い起こされる。だが、この景色はその桜と同等か、もしくはそれ以上の美麗な一枚絵として、完成されていた。
 いつも見ていた風景のはずなのに。
 夏も冬も秋も、その様々な顔をみせる1年の中でも、最も美しい"今"という時間。昼間に見るのとはまた違う、とてもとても綺麗な景色。
 ライトの明かりに照らされた桜の雨が、周りの闇に浮かび上がって、いっぱいいっぱい舞っていた。
 風も無い夜の、自然に落ちてくる桜の花びらは、まるで私たちを舞踏会へと誘っているかのように、妖艶ながらも可憐な踊りを踊っていた。
「これは……?」
「桜。あなた、自分の誕生日を忘れてしまったの?」
 私の横には、居間で泥酔しているはずの姉さんが立っていた。
「たん、じょうび……?」
「そう、誕生日。日付が変わったから、今日があなたの誕生日なの。わかる?」
 別に、忘れていたわけではない。だが、それとこれと、どんな関係があるのか……。
「士郎がね、去年も一昨年も何もしてやれなかったからって。誕生日の事にしても、私が口にしなければたぶん、やらなかったんじゃない? いくら今が幸せだからって、恋人に誕生日も教えてないなんて、本当に抜けているんだから」
 こら、と私の頭をコツン。姉さんの言葉の意味を理解するにつれ、私は喜びの感情が心の中から湧き出てくるのが分かった。
「ということは……」
「そうよ? 今日飲み会をしたのも、全てはこれの為だったのだ~!」
 一升瓶を持って縁側に来たのは、どうやら本当に酔っ払っていそうな藤村先生だった。いくらライトがついているからといって、桜に向けられている明かりは縁側の方にはあまり届かない。その闇の中から千鳥足で寄ってくれば、酔っていないと思うほうが無理な事だった。
「士郎はね?、最初は何かプレゼントを買ってこようとか、パーティを開こうとか言ってたんだけど『それよりも、もっと別な方法を考えてみてはどうでしょう?』って、ライダーちゃんが言ってねえ。それで、こんなにロマンチックな方法に変えたのだー!」
 といって一升瓶をラッパ飲み。
「まあ、士郎にしては中々粋なものだと思わない? 物として形が残るわけじゃないけれど」
 私はブンブンと首を振って、満面の笑顔で姉さんに言った。
「いいえ。昼間は昼間で綺麗ですけれど、明かりに照らされた夜の桜も、凄く綺麗で……。私はもうこの光景を頭の中に焼き付けましたから。たぶん、一生残るものだと思いますよ」
「そう。良かった」
 そう言って、一緒に並んで夜桜を見る。
「桜。誕生日、おめでとう」
「おめでとう~桜ちゃ~ん」
 がばぁ! と抱きついてきた藤村先生も、耳元でそんな風に叫んだ。少し耳鳴りがしそうだったけれど、嬉しさ満点の私には、ただその祝福の言葉だけが、心の中にストンと落ち着いた。
「俺からも。桜、おめでとう」
 今さっきまで二階にいた先輩が、藤村先生が抱き着いたままの私に言った。
「……すごく、嬉しいです。先輩に言ってもらえて……」
「あぁ~! 桜ちゃん、私の祝辞は嬉しくなかったのぉ~!?」
藤ねえ、うるさい」
「そんな、藤村先生からも、姉さんからも言われて、そして、こんなに綺麗な景色をプレゼントされて……私、すごくすごーく、嬉しいです」
 嬉しすぎて、涙が出てしまうくらいに。
「じゃあ、ケーキ持ってくるから、待ってて」
 姉さんは台所へ向かって駆け出した。
 抱きついた藤村先生がようやく離れてくれたおかげで、またゆっくり桜を見る事が出来た。でも、先生と、先輩と、姉さんに祝辞はもらったけれど、もう一人言って欲しい人物がいる。
 彼女は、いつの間に消えてしまったんだろう……。
「ごめん、桜。お前の誕生日に、今まで何もしてあげられなかったから」
「そんな、気にするような事じゃないですよ。それに、1年ごとに祝ってもらっていたら、こんなに綺麗な夜桜は見れなかったでしょう?」
 縁側に座る。先輩も、隣に座ってくれた。
 その肩に、少しだけ頭を預ける。
「先輩の事、もっともっと好きになっちゃいました。先輩の誕生日、覚悟しないといけませんね」
「ああ……楽しみにしてるよ」
 微笑を浮かべて、そう言ってくれた。本当に、これ以上のお返しをしないといけないのだから、それこそ生半可なものなんて、出来ないじゃないですか。ちょっとは私の気持ちも考えてくださいよ。なんて、嬉しさのあまりついついそんな事を思ってしまった。
 私は先輩を見つめて、先輩も私を見つめてくれる。その顔が、だんだんと近づいてきたので、私は目を閉じて迎え入れようとした。
「あ~、お取り込み中悪いんだけど」
 とたん、バッと先輩から離れて、声のしたほうを向いた。
 姉さんが、呆れ顔で腰に手を当てて見下していた。
「あああ、あれ、姉さん? ケーキを持ってくるんじゃなかったんですか?」
「持ってきてるわよ。作った本人がね」
 親指を立てて、背後を指差した。すると、そこにはケーキを持ったライダーが立っていた。
「……ライダー?」
「サクラ。遅くなりましたが、お誕生日おめでとうございます」
 その手には、手作りらしいちょっと歪な形のケーキ。自分で書いたであろう、チョコレートに生クリームで『A Happy Birthday Sakura』。蝋燭も、私の年齢分しっかりと立てられていた。
 お店で見るものよりも、ずっとおいしそうに見えるイチゴショートだった。
「もしかして、ライダー。そのケーキの為に先輩から料理を教わってたの?」
「そうですが」
「私を尾行していたのは?」
「誕生日の為に、桜の趣向をチェックしていたのです」
「先輩と二人っきりで話をしていたのは、このプレゼントの打ち合わせだったの?」
「サクラ。あなたはどこまでみているのですか……」
 最後にちょっとあきれられてしまった。でも、そんなに私の誕生日を驚かせようと企画していたなんて……。
「はいは~い。じゃあ、電気消して。士郎、上の人たちにも言って」
「おお。お~い! 明かり消してくださ?い」
 ライダーの持っているケーキの蝋燭に、一つ一つ火を灯す姉さん。先輩の呼びかけに「了解、士郎ぼっちゃん」などと聞こえてきた。どうやら、藤村組の皆さんも私の誕生日に狩り出されていたらしい。
 電気が消され、明かりは蝋燭の灯火のみ。それが照らすのは、私の大切な人たちの顔。

Happy birthday to you.
Happy birthday to you.
Happy birthday dear Sakura.
Happy birthday to you.

 不意に歌われたその英詩の歌。それは、ライダーの独唱だった。
 生前は女神として知られている彼女の歌声は、まるで教会で歌われる賛美歌のように壮大で、だけど心の奥底に深く深く、ゆっくりと確実に浸透する歌声だった。
 皆の祝福とともに、私はまた1年を積み重ねる。
 こんなに幸せで、嬉しい誕生日など今まで無かった。
 その嬉しさを胸に、蝋燭の火を一気に吹き消した。

end