Kirschbaum

ハマっているモノについて徒然語るblog

Fate SS・ささやかなエピソード2 「A Happy Happy Xmas」

インターネットアーカイブから過去のWebサイトを発掘したので、ネットの海に消えたはずのSSを少し掲載しようかと。
このSSの執筆はFate/stay night発売後、Fate/hollow ataraxia発売前に執筆した物(時期的に2005年のはず)なので、今現在のFate界隈の設定とは乖離がある可能性があります。
内容としては一般人の視点でイリヤを描いています。

また、誤字脱字は当時のままにしておりますので、そこらへんは見逃していただけると。



====  ささやかなエピソード2

A Happy Happy Xmas


 そのとき僕が思ったのは、一体どんな集団だったんだろう、ということだった。
 クリスマスイヴの夕方。時刻は5時過ぎだというのに、もう空は暗く心なしか星も月も見えていない。雪が降る前兆なんだと思うけれど。
 駅前の時計塔の前で人を待っていた僕は、奇妙な集団がバスから降りてくるのを見ていた。
 一人は帽子とコートが同色の、外国人っぽい女の子。なぜそう判断したのかというと、単純に髪の色と瞳の色だ。髪は染めているかもしれないし、瞳の色だってカラーコンタクトかもしれない。でも、どこか日本人離れしたその雰囲気がそう思わせた。
 その後の三人は学校の制服に身を包んだ男女だった。男は一人で、癖の強い赤毛を短く切っている。今さっき出てきた少女に連れられるようにこけそうになりながら出てきた。後ろにいたのは薄い色の髪をしたストレートヘアの女子。前二人の行動に笑いを浮かべながら出てきた。そして、リボンでツインテールにしているいかにも気の強そうな女子が学生達の最後に出てきた。前の女子とは違い、多少あきれているような表情をしていた。
 その後ろにはショートカットの女性が出てきた。黒いコートに身を包んでがたがたぶるぶる体を震わせている。一番最初に出てきたコートの少女よりも重武装なのではないか? と思ってしまう。
 そして、最後に出てきたのはいかにも幾多の激戦を繰り広げてきたであろう、豪快な雰囲気のする年寄りである。ただ、どう見てもガタイはすごい。僕もそれなりに鍛えてはいるけれど、あんなにマッチョになるには一体どんなことをすればよいのだろうか……。最初にどんな集団だと思ったのは、間違いなくこの老人の姿とか雰囲気とかを含めてしまったからに違いない。
 バスを降りた6人は一緒になって駅前のショッピングモールの中に入っていく。
「もう、2時間も過ぎてるし……」
 待ち人はもう来ないだろうと思った僕は、なんとなく気になったその集団に付いて行った。

 集団は1階のレディースファッションの売り場でウィンドウショッピングでもしているみたいだった。少女は見た目に似合わない大人向けの服装を手に取ったり、それを回りにからかわれてふてくされたりと、さまざまな表情をくるくると入れ替わり立ち代り見せていた。この外国人の少女がいないと、他の5人は(多少、老人が特殊ではあるが)学生とその保護者という構図が成り立つのだが、少女のおかげでどこかしら不思議な雰囲気を醸し出している。
 学生の誰かの妹なのか? それはありえないだろう。それならば、学生の中にも一人外国人がいるはずだし。となると、ホームステイか何かだろうか。こんな中途半端な時期にそれも無いだろう。だとするなら、一体どんな関係がこの人間たちにあるのだろうか。
 ……まぁ、直接本人たちに「あなたたちはどういった関係なんですか?」なんて聞くのも変だし、ここは素直に疑問を心のうちにしまうのが一番良いかもしれない。
 少女は学生の少年に妙になついている。もちろん、他の面々にも話をしているし、なついてはいるのだが、少年に対する行動が思いのほか露骨なのだ。何かと別の場所へ行こうとする少年を悉く妨害しているというか、この時間を少年と一緒にする時間として位置づけているのかもしれないと、そんな風に思えるのだ。
 その様子にツインテールの女学生は呆れ顔で、ロングヘアの女学生は怒りと微笑が入り混じったような複雑な表情をしていた。老人は無表情で、コート姿の女性は明らかな泣き顔をしている。個性豊かなその集団を振り返る人も少なくは無いが、そんなのは意に介さない少女の笑顔と、少年の困惑顔がすべてを物語っているのかもしれない。
 イヴの夜、という特別な日。その時間を精一杯楽しもう、としている。それはまるで、失われた時間を取り戻すように。生き急いだ人間が更に思い出を作るかのように。

「もう、どこに行ってたのよ? 待ってたんだからねっ」
 時計塔に戻った僕は、さも当たり前のように待っている彼女を目の前に、ぼけっとした表情をしてしまった。
「待ってたって、待ってたのは僕のほうだよ」
「ちゃんとメール入れてたじゃない。見なかったの?」
 あわてて携帯を出してみる。すると、携帯の電源が入っていないことに今気が付いた。
「……ごめん。充電し忘れてたみたい」
「馬鹿。まったく、肝心のところで抜けてるじゃないの。まぁ、いいわ。遅れるって言ったのは私のほうだし、3時間も遅れたのに待っててくれてたんだもの」
「あー、うん。ごめんね、本当に」
 怒ったような、照れているような表情を見ていると、待っている間に感じた『ひょっとして、僕って振られたのかな?』なんていう気持ちも吹き飛んでしまった。
「じゃあ、まずご飯にしますか。何かリクエストある?」
「んー、特に無いよ。今日は割り勘じゃなくて私の驕りでいいから、貴方が好きなもの食べてもいいよ」
「そうだねぇ、じゃあ……」
 僕が食べたいものをリクエストしようとしたときだった。
「あーっ!! 雪だ?!」
 僕でも彼女でも無い大きな声が、駅前の広場に響いた。
 その声を聞いて、僕も彼女も空を見上げる。
 粉雪と呼ぶにはとてもじゃないができない雪が、一斉に降り出したのだ。
「本当ね。でもイリヤちゃん? 雪が好きだからってそんな大きな声を出すのはどうかとおもうな」
 横を見てみると、今さっきの集団が僕たちの近くまで来ていた。周りの人たちも皆一斉に空を見上げて、この綺麗なホワイト・クリスマスに見入っている。
「綺麗だね」
「うん、遅れてきて良かったかも?」
「それとこれとは話が別だけどね」
「あははは」
 ごまかす様に笑う彼女。でも、綺麗な雪を見ていると、そんなちっぽけな事を気にしていることも無いよな、などと楽観的に考えられるようになった。

『……Die Luft ist kuhl und es dunkelt』

 聞きなれない言葉が聞こえてきた。日本語でも英語でもないその言葉は、横にいた集団の少女から聞こえてきたものだった。

『Und ruhig fliest der Rhein.』

 少女はさっき女学生に怒られたからか、多少小さな声でその不思議な言葉の歌を歌っていた。その歌声はこの世にあふれているどの歌よりも透き通り、どの声よりも非常に耳に残る声だった。
「いい歌だね」
「あれ、知らないの? これ、ローレライっていうドイツのクラシックよ。でも、私もドイツ語の独唱は初めて聞いたけど」

『??Der Gipfel des Berges funkelt Im Abendsonnenschein』

 一人の天使が歌っている。
 それほどまでに幻想的で、そして、今聞いている歌声には、不思議な魅力が包まれていたのだ。
 ひょっとしたら、彼女が来てくれたのは、この少女がした悪戯の一つではないのか? などと、冗談のようなことを思ってしまった。
 でも、何がおきても不思議ではない。
 なんたって、今日はクリスマス・イヴの夜なのだから。