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Kirschbaum

ハマっているモノについて徒然語るblog

Fate SS・ささやかなエピソード「perpetual dream」

インターネットアーカイブから過去のWebサイトを発掘したので、ネットの海に消えたはずのSSを少し掲載しようかと。
このSSの執筆はFate/stay night発売後、Fate/hollow ataraxia発売前に執筆した物(時期的に2005年のはず)なので、今現在のFate界隈の設定とは乖離がある可能性があります。
内容としてはFate Trueエンド後を描いています。

また、誤字脱字は当時のままにしておりますので、そこらへんは見逃していただけると。



====  霧のかかる大きな泉。そこに浮かぶ舟の上で、私は眠る。
 瞼の裏に浮かぶのは、私が生きていた頃の数々の出来事。
 それを振り返りながら、一生懸命に生きた人々に思いを馳せる。

 あの頃の思い出を、あのときの記憶を。

 そして、あの場面の強い思いを。

perpetual dream




「貴方を、愛している」

 この言葉を、必ず最後に口にしなければならないと思った。
 あの少年が私に与えた物は、どれも尊く、どれも素晴らしいもので、しかし少しだけ、私とは決して相成れない物もあった。
 それらを全てひっくるめて、私は彼を愛してしまったのだと思う。
 王として生きて、王として死ぬ覚悟はしていても、最後には国を滅ぼさずにはいられなかった自分に、彼の言葉が、意思が。そして、何よりも彼と戦い、生活した思い出が、私の未練を解き放った。

 ただ何もない平原で。全てが終わった山頂で。私の言葉を聞いた彼は、一体何を思ったのだろうか。

 自分勝手? 自己満足?

 いや……彼はそのように思う事はないだろう。
 止めようと思えば止められた。彼が何か言えば、私はあの場所にとどまっていただろう。
 けれど、それをしなかった。

 彼は私の誇りを胸に、私は彼の理想を胸に。それぞれを抱いて、生きることになる。
 それぞれの思いを尊重しているからこそ、私は素直に止まっていた場所へと戻る事ができたのだろう。
 私は、彼の側にずっといる事は出来ない。
 けれども、手を伸ばせばすぐそこに、彼のぬくもりが、彼の笑顔が見れるのだ。

 少し眠くなってきた。
 また、彼の夢を見ることになるのだろう。
 しかし、まだ『全て遠き理想郷』にはつかないのだろうか。
 もう、何日も、何ヶ月も、何年もこの泉の上に留まっているような気がする。
 まぁ、良い。
 少なくともこの舟の上にいる間は、少年と共にいる夢を見ることが出来るのだから。
 このまま、ずっと着かなくても良いかも知れない……。

----*----



「うわっぷ……んもう、急に止まらないでよ、士郎」
「あぁ、ごめん。なんか俺を呼ぶ声が聞こえてきたような気がしたからさ」
「何? なんか危ない薬でもしているんじゃないの?」
「それは週1で遠坂から飲まされている薬じゃないのか?」
「馬っ鹿。アレは別にトリップするような薬じゃないわよ。単純に、あなたの魔術師としての素質を高めるためのもの、よ」
 一組の男女が、下校時に通る坂道を下っていく。
 一方は茶色い癖っ毛の意志の強そうな少年。もう一方は長い髪を、リボンでツインテールにしている勝気そうな少女だった。
 少し縦になって歩いていた所に、男が急に立ち止まったものだから、後ろにいた女は彼の背中にぶつかってしまったのである。
「……なんていうか、懐かしい声だったから、つい」
「養父の切継氏じゃないの? 今、ちょうどそんな時期だし」
「そうじゃなくて。女の子の声だったんだ」
「女の子……あぁ」
 ぽん、と手を打ち、女は何か分かったような顔で言った。
「あなた、まだセイバーのこと引きずっているわけ?」
 それを聞いたとき、少年の顔にわずかだが、暗い影が入った。けれども、少女は少しあきれたような顔で腰に手を当てて言う。
「前に言ってたじゃない。セイバーの事は引きずっていないって。でも、そんな声が聞こえるのなら、まだまだ振り切ってないんじゃないの?」
「いや、そうじゃないと思う。あいつがいない日常が当たり前になってるし、今まで全然こんな事はなかったんだ」
「じゃあ、セイバーもこっちに帰ってきているのかしらね。お盆だし」
 歩いていくその先には、深山町の中心となる交差点が見えた。
「もしそうだとしたら……もう一回契約しちゃえば? 少なくとも、彼女は役目を終えているんでしょうし」
 沈黙。交差点に差し掛かって、二人は立ち止まった。
「それはできないよ。もちろん、幽霊だとしてもセイバーがいてくれたら嬉しいとは思う。けれど、二人とも正しいと思った事、踏み込んではいけないと思った事があったから、別れたんだ。それは、今でも後悔していない。彼女が留まっていたときに戻ったからこそ、俺はこうして正義の味方を続ける事が出来るんだ」
「ふぅん」
 少女は何か思う事があるのか。少しためらってから、少年が向かう物と別の道へと歩き出した。
「まぁ、一緒に死闘を駆け抜けてきた仲なんですもの。どこかで会ったら、挨拶くらいはしなさいよ?」
 少女の言葉に何がおかしいのか、少年は目を見開いた後、少し微笑んだ。
「あぁ、そうするよ」
「なんか嫌な顔ね」
「いや……気負いすぎてから、当たり前のような事を見失ってただけだと思ったから、な」
 少年も、少女とは別の道へと歩き始める。
「じゃあね、士郎。セイバーによろしく」
「あぁ。俺に会う資格があれば、な」
 二人は別れの言葉を言い、そして、我が家へと帰っていく。

----*----


 その夜の事は、俺にしか分からないのだろう。
 小さな舟の上で眠る美しい彼女の姿を、俺はただ黙って見る事しか出来なかった。
 進む事もなく、戻る事もないその舟の上で、彼女は永遠の時を刻みながら『全て遠き理想郷』に着くのを待っている。
 着く事はまずないだろうし、彼女もその事を知っているかもしれない。
 けれど、それを邪魔するのは無粋な事なんだろうと思った。

 だって、彼女の眠る姿が。
 本当に、本当に安らかだったから。
 彼女がどんな夢の続きを見ているのか。
 その答えを知ることは永遠にないのかもしれない。
 けれど。
 その夢が、彼女にとっての本当の『全て遠き理想郷』であればいいな、と。
 そう、思った。

end