Kirschbaum

ハマっているモノについて徒然語るblog

夏祭り

C92用に書いていた桜主体の小説原稿です。

せっかくなので、ブログで公開しようかと。

基本HFトゥルー後のお話なので、FGO的な成分は皆無です。

 


1.

「はーい。学校生活最後の夏休みを気をつけて満喫するようにー」
 藤村先生の元気な声が反響する夏休み前の教室。話を聞いているのは半分ほどだけれど、聞いていない半分の中に私も混ざっているかもしれない。
 学校生活最後の夏休み。この学校に通い始めてから、たぶん始めてゆっくり出来る夏休みじゃ無いかと思う。部活も引退し、たまに弓道部に顔を出すだけとなって、長期休暇の間に何をすれば良いのか、少しの戸惑いがある。
 去年は部活と先輩の看病でいっぱいいっぱいだった。今年は先輩の体も調子が良い。二人で海に行ったりするのも良いかもしれない。新都への買い物もゆっくり出来るかも。
 旅行なんかはどうだろう。二人っきりで温泉宿に泊まるとなると、かなりハードルが上がるかもしれない。けれど、二人で温泉……先輩の浴衣姿……汗ばんだ体……。
 夜の間に何が行われるかを夢想してしまい、ここが教室だと思い出して淫靡な考えをとっさに振り払う。なんだか最近、こういう妄想をすることが増えてしまっている自分に反省してしまう。。。
「もーう、みんな話を聞きなさーい!」
 明日からの夏休みに浮かれている生徒達にとって、このホームルームの時間はあまりに長い。藤村先生の声は、やっぱり夏の教室の中に響いていた。

 2年生の教室前の廊下。先輩と一緒に帰ろうと思って、特に考えもせずに来てしまった。普段は校門前で待ち合わせたりしているため、廊下で待つのは少し緊張する。
「あ、間桐先輩。何か用ですか?」
 ちょうど弓道部後輩の女子生徒が私に気づいて、用件を聞いてくれた。見慣れた顔が合って少しほっとする。
「衛宮せ……じゃなかった、衛宮さん呼んでくれる?」
「別に先輩でも構わないと思いますけど。私たちも先輩って呼んでますし」
 にゃはは、と笑いながら先輩を呼びに行ってくれる。普段は先輩と呼んでいても、他人がいる場では学年が上の私が先輩に「先輩」と呼びかけるのは、少し憚られる。それに天真爛漫に返されて、少し顔が赤くなっていくのを感じた。
「衛宮先輩、間桐先輩が呼んでるよ」
「先輩って呼ばないでくれって行ってるじゃ無いか」
 聞き慣れた声が聞こえてきた。悪態をついている声も、藤村先生に対する物とは少し違っていて、なんだか微笑ましい。
「悪い桜、今行くよ!」
 他人などどこ吹く風。私が考えていた学年の上下を物ともせず、大きな声で普通に名前を呼んできた。なんだか自分が変に重く考えているようで、少し悲しい。
「お待たせ、一緒に帰ろうか。バイトが入ってるから、交差点の辺りまでだけれど」
「いいえ、大丈夫ですよ。私も、お夕飯の準備で商店街の方へ行きますし」
 雑談をしながら二人で並んで歩く帰り道。夏の高い空に日差しが照らされ、非常に暑い。
「夏休みどうします? 去年は先輩も私も大変でしたし、何か色々しようと思ってるんですけれど」
 そう、去年は何も出来なかった。先輩がいなくなってから数ヶ月、見つかった先輩を元に戻そうと、色々な人が色々な手段で助けてくれた。そんな中でも、藤村先生には心配をかけたくないと、弓道部の部長という大役を任せられ、忙殺されたことを思い出す。
 なので、今年こそは先輩と色々な夏のレジャーを楽しもうと、ずいずい攻めてみようと思っての一言。
「それなんだけど、桜。夏休みはバイトが結構入ってて、予定が合えば大丈夫なんだけど、ネコさんが『エミヤン、体動かしとかないとなまっちゃうよー』って、かなり多めのシフトが入ってるんだ」
「……」
 笑顔で硬直してしまう。確かに、先輩のバイトも衛宮家の重要な収入源だ。先輩のお父様の残した遺産や、間桐家の遺産もあるとはいえ、なるべく手をつけずにいよう、という先輩の考えは分かる。
 分かるのだけど……
「そうですか。そんなに私と一緒にいたくありませんか」
「あ、いやそういうわけではないんだけど……」
 拗ねたような口調で口から出たのは、自分の考えとは違う気持ちだった。歩調は早足になり、先輩をおいていくような速度で歩く私に対して、焦ったような先輩の声が聞こえてくる。
「桜に相談もせずに決めたのは悪かった。でも、ネコさんも突然来なくなった俺を、いやな顔一つせずに雇ってくれたから、それに応えようと思ったんだ」
 自分ながら、つーんという擬音が似合いそうなほど拗ねた顔をして歩いているのが分かる。先輩が自分本位でバイトを入れていないは分かる。先輩が優しいのも分かる。
 けれど、納得できてしまうのに拗ねてしまっている自分が酷く幼稚なのに、それでも気持ちの上では先輩を責めてしまう。
 かなりの早足で歩いていたため、新都と深山町の分かれ道となる交差点へ着いてしまった。
 先輩の言葉に対して、とても申し訳ない気持ちがこみ上げてきて
「ごめんなさい、先輩が優しいのは分かります。私も、わがままだって分かっています」
「桜、あれ」
 意を決した言葉に、先輩が指を指して応える。
 指の先にあったのは、町内会の掲示板。普段はあまり見ることの無いその掲示板には『深山神社夏祭り』と書いてあった。近所の神社の夏祭りの告知のようだった。
「先輩……?」
「あれ行こうか。バイトも夜には上がれるとは思うし。それに」
 呆然とした顔の私に振り向いて、いつもの優しい笑顔で続けた。
「一緒に行ったことないだろ、夏祭り」

2.
 鼻歌を歌いながら夕飯の準備。我ながら単純な物だと思うのだけれど、今まで先輩と重ねられていない思い出を作れる事に、嬉しさを噛みしめてしまう。
 夏祭りに行った記憶はほとんど無い。とても小さい頃に、少しだけ遠巻きに出店の明かりと祭り囃子を聴いただけ。元々魔術師の家に暮らしていたのだから、祭りについての経験を積ませてもらう事も無かった。
 暗がりの虫倉で、人としての尊厳も何も無く人体を蝕んだあの日々のなか、好きな人と一緒に祭りに行ける想像が出来る訳が無い。
 人として生きてこれなかった18年の人生を考えても、先輩と一緒に夏祭りに行けることはとても特別で、嬉しい事なのだ。
「なにやら嬉しそうですね、サクラ」
 夕飯の気配を察知したからか、ライダーが居間へ入ってきた。長身のスラっとした肢体と、長い紫色の髪、一見クールな顔には、優しそうな微笑みが浮かんでいた。
「ええ、とても嬉しいわよ。先輩と夏休みの思い出を作ることが出来るから、ね」
 こちらも満面の笑みを。嬉しい事に嬉しいといえることが心地良い。
「へぇ〜、士郎も隅にはおけないわね」
 ライダーと私以外の声が聞こえて、少しびっくりしてしまう。
「あ、姉さん?」
「おじゃましてるわよ、桜」
 吸い込まれるような黒髪をなびかせながら、居間に入ってきたのは姉さんだった。
「姉さんも夏休みですか?」
「まぁ、ちょっとしたバケーションよ。なぜか自分の家よりも先にこっちに寄っちゃって。玄関先でライダーとばったり会ったから、上がらせてもらったわ」
「はぁ……」
 びっくりした気持ちがまだ落ち着かない。去年の色々で姉さんともすっかり打ち解けたと思っていたのだけど、先輩の話題が入ると未だに苦手意識が掠めてしまう。どうにも私と先輩の事をからかう癖があり、先ほどの言葉の端にもそういった思いが見え隠れしているせいかもしれない。
「で、その士郎は?」
「今日はバイトなので、お夕飯は一緒に出来ないですね」
「あ、そうなの?」
「よければ姉さんも食べていきますか?」
「うん、いただくわ」
 姉さんの微笑みを受けて、もう一人の追加分を準備し始める。藤村先生には少し泣いてもらう事になるかもしれないけれど、姉さんが来てくれたのだから大丈夫だろう。
 居間に背を向けて夕飯の準備を始めたところで、姉さんから更に問いかけがあった。
「ところで、夏祭りに行くんだって?」
「ええ、先輩が誘ってくれたんです」
 自分でも浮かれていると分かってしまうような声で返事をしてしまった。でも、嬉しいのだから仕方が無い。
「へぇ〜」
「サクラがここまでご機嫌なのは最近あまりありませんでしたから」
 ライダーも嬉しそうな声で姉さんに話していた。ご機嫌、という発言から、本当に端から見たら相当浮かれているように見えているらしい。
「桜って、夏祭りには行ったことあるの?」
「いえ、ありませんけれど……」
「じゃあ、色々準備しないとね」
「準備、ですか?」
「祭りに参加するための準備が必要なのですか?」
 疑問に思って居間へ振り返る。ライダーも疑問の声を上げているが、何を準備するのだろうか?
「せっかく夏祭りに行くんだもの。日本古来の楽しみ方をするべきじゃないかしら?」
 自信満々に笑みを浮かべている姉さんの発言に、私とライダーは更に疑問を深めたのだった。

3.

 夕暮れから夜へと至るその教会。うっすらと明るい神社の鳥居の前で、先輩を待つ。
 いつもとは違う違和感に、時折周りを見回しては、自分の格好がおかしくないかを確認してしまう。歩きにくいぽっくり下駄と和装。締め付ける曝しと帯のおかげで、もう少しやせておけば良かった、と思ってしまい恥ずかしい。
『夏祭りといえば浴衣でしょ? 綺麗にドレスアップすれば士郎もイチコロよ?』
 姉さんに言われて、あの場に少し戸惑ったけれど、ライダーも何故か乗り気なようだったので、結局押されてしまった浴衣姿。レンタル品だから、汚さないようにしないと。
 せっかく行くのだからと、ライダーにも同じように薦めていたのだけれど『私のような女がこのような可愛らしい格好は似合わないので』と頑としてゆずらなかった。次の機会があれば、必ず彼女にも浴衣を着させてあげよう。長身の彼女にもきっと似合うに違いない。
「先輩、まだかなぁ……」
 わざわざ神社前で待ち合わせ、というシチュエーションも姉さんの手による物だ。
『士郎はバイトなんでしょ? じゃあ先に神社で待ち合わせてればいいじゃない』とは姉さんの弁だが、なんだかイギリスに行ってから、恋愛コンサルタントのような提案をしてくるようになったのは気のせいだろうか。。。?
 でも、姉さんのあんなに楽しそうな雰囲気を見られたのは久しぶりかもしれない。私は私で内心ドキドキしている雰囲気を楽しんでしまっているし、これからの事を考えると楽しみでしょうがない。
 時刻は夜7時前。大きな花火が上がるわけではないお祭りだけれど、深山町の人々に親しまれている事は分かる程、人が途切れないでいる鳥居前。
「桜ちゃんお待たせ〜」
 ぼんやり色々なことを思っていると、右手から声が聞こえた。
「あ、藤村先生」
「いやぁ、ごめんね待たせちゃって」
 藤村先生の姿を見た後、その隣の人物の格好にドキっとした。
「悪い、桜。待たせちまったな」
 そうやって、いつもとは違う甚兵衛姿の先輩の姿に呆然としてしまった。
「こうしてみると、切嗣さんみたいよねぇ」
 藤村先生がしゃべっている言葉が聞こえるが、頭には入ってこない。
『普段と違う姿を見ると、新鮮でドキドキするわよ?』
 姉さんの言っていた言葉がリフレインする。
 これは、確かに。とてもドキドキしてしまった。

「よーし、とりあえず焼きそばとたこ焼きと人形焼きとぉ」
藤ねえ食い過ぎだ! 少しは大人の節度を持って祭りを楽しめないのか」
「なによぅ、士郎も少しは子供の時みたいにはしゃぎなさいよぉ」
「何年前の事いってるんだよ、まったく」
 喧々囂々。人の多い中でも通りの良い声でいつも通りのコミュニケーションをしている先輩と藤村先生を先頭に、私とライダー。赤い浴衣姿の姉さんと、賑やかな祭り囃子の響く出店の出ている参道を練り歩く。
「こんなに賑やかなんですねぇ」
「どう、桜? 人が多いところだけど、楽しそうな雰囲気でしょ?」
「ええ、先輩と二人っきりじゃない所は残念ですけれど、皆さんと一緒にいるのも楽しいです」
「言うようになったわねぇ」
 姉さんと顔を見合わせて笑う。浴衣をレンタルする際、姉さんも普通に浴衣を選んでいたので、一緒に行くつもりなのかとせまってみたら『一緒に行くわよ?』とあっけらかんと返答した。
 実際、残念な気持ちはあるのだけれど、祭りの雰囲気をみんなで味わうことができて少し安心している。普段見慣れない甚兵衛姿の先輩と二人っきりだと、心臓の動悸が抑えられそうに無かったのだから。
「ま、お邪魔虫な私たちだけど、ちゃんと二人っきりにしてあげるから、心配しないでいいわよ」
「そ、そんな、お邪魔虫だなんて」
「サクラ。私もリンと一緒にタイガを引きはがしますので、後はごゆっくり」
「も、もー! ライダーも何言ってるの」
 先ほどまで一緒にいられて楽しいという思いはどこへやら。二人からこう言われてしまうと、ついつい色々思い浮かべてしまう。
「藤村先生ー! あっちにりんご飴ありますから、行きましょう」
「おー、遠坂さん良いチョイス! 行こう行こう!」
 人の波をかき分けて藤村先生が見えなくなってしまった。いつの間にやら頭にお面、両手に焼きそばを持ってしまっていたので、落とさないようにだけ心がけてほしい。
「それでは私も、リン達について行きますので」
「……ごめんね、ライダー。巻き込んじゃって」
「いえ、謝らなくて大丈夫です。私は、サクラが笑ってくれている事が、何より嬉しいのです」
 そう微笑んで、藤村先生と姉さんの消えた方向へ向かって行ってしまった。
 あれはライダーなりに心配しているのだろう。先輩が帰ってこないことで自暴自棄になり、自殺を試みた事も一度や二度では無い私を知っている数少ない一人。罪の重さに耐えられず、大事な人が帰ってこない絶望に飲まれていた私に、真っ正面からつきあってくれた、とても大切な人であるライダーが、そう言ってくれるだけで心が安らぐのを感じる。
「まったく、藤ねえの子供加減にも困ったもんだな」
 少し困ったような顔をして、でも少し微笑みながら話す先輩。
「楽しむ時に精一杯楽しむのが、藤村先生っぽいと思いますし、そんな藤村先生も好きですよ」
 クスクスと笑いながら応える私に、先輩が正面から向かう。
「ごめん、桜。遠坂にいいように振り回されてる気がするけれど、一緒に見て回ろう」
「……はいっ!」

 二人で手を握りながら、自分では初めての体験を色々と出来た。
 金魚すくいや綿飴、かき氷や型抜き。何をするにも初めてのことばかりで、楽しくて楽しくて、ずっとずっと続いてほしい。先輩と一緒の時間が永遠に続いてほしい、とそう思えた。
 ふと気がつくと、目の前には拝殿が建っていた。住宅街の真ん中にある神社にしては、とても立派な拝殿だ。祭り囃子は既に遠く、ここには明かりがあまり灯っていない。少し暗い木々の中から、虫の鈴なりも聞こえてきている。
「ありゃ、いつの間にかここまで来ちゃったか」
 先輩と楽しそうに会話をしながら来てしまったからか、二人とも出店の連なりが終わったことに気がつかなかったらしい。
「それだけ楽しかったんですよ」
「そうだな。どうだ、お参りしていくか?」
「ええ、是非」
 お賽銭を入れ、手を合わせる。
「拍手して、礼をして、もう一度拍手。といっても、俺もあまりしっかりとしたお参りはしたことがないんだけどな」
 先輩からの指導で、形だけでも様になるお参りになっているだろう。神様への感謝を思いつつ、様々な事柄が浮かんでは消えていく。
 先輩との事、姉さんとの事、ライダーとの事。
 そして、2年前の惨劇と、自分の中に潜む罪の意識と、それでも尚生きていたい思いと。
 全てを思い出し、けれども全ては「先輩と一緒にいたい」という事柄に収束してったお願いを胸に抱いて、瞼を開ける。
 先輩は私よりも先に済んでいたらしく、私の方をじっと見ていた。
「あの、先輩?」
「ん? あぁ、いや、ごめん」
 そっぽを向いて頬をかきながら、先を続ける。
「その、桜がお参りする姿が、あまりに綺麗だったから。浴衣だし、髪も結い上げていつもの印象と大分違っていたから、つい、その」
「あ、え、その……」
 私の事を綺麗だと言ってくれて、とても嬉しく、とてもとても恥ずかしいのだけれど、鳥居前で会ったときはそんなストレートに言ってもらえなかったので、そこまで印象が変わらなかったのかと、内心がっかりしていたのに。
「いや、ごめん。あ、綺麗なのは本当だから、その。じろじろ見てすまん!」
「あ、いえ、あ、ありがとうございます……」
 消え入りそうな声で感謝を述べてしまった。
 沈黙が降りる。二人とも恥ずかしさのせいか、相対しているにもかかわらず、そっぽを向いてしまっていた。虫の鈴なり、遠くの祭り囃子、明かりも少ないせいでまともに顔が見えない。
「せ、先輩……」
 大好きな先輩の顔を見ようと正面を見ると、目が合った。
 話すことが出来ない視線。祭りの興奮と、羞恥の入った赤い顔を見ていると、心臓の動悸が激しくなる。とてもうるさいけれど、今はこの気持ちに素直になろう。
 先輩も気づいてくれたのか、私の肩を抱いて、顔を近づけてくる。
 とてもとても、嬉しい気持ちだったのだけれど……。
「やっぱりいいわねぇ、若いって」
 という聞き慣れた声が聞こえた瞬間、二人して声のした方を振り向いた。
 そこには、木陰に隠れようとしていた藤村先生と、その口をふさいで木陰に引きずり込もうとしている姉さんの姿。それから、何故か困ったような顔でそっぽを向いているライダーの姿だった。
「な、なななっ!?」
「い、いやぁごめんごめん、お邪魔しちゃって。後はごゆっくり……」
「いいいい、いつからいたんですかっ!?」
「えーと、『お参りしていくか?』ぐらいから」
「〜〜〜〜!!!」
 我ながらこんな声がよく出る物だ、と思えるほどの声にならない悲鳴を上げてしまった。
「遠坂、藤ねえ! なんでそんなデバガメみたいなことを!」
「保護者として当然の事をしたまでのことよ!」
「私も姉としてとてもおもしろ……じゃない、健全な恋愛をしているか確認しただけよ」
「本音が出てるぞ遠坂」
 先輩が藤村先生と姉さんの方へ駆け出していってしまった。
 あぁ、恥ずかしくて死にそうだったけれど、先輩と家族とのやりとりを見ていたら、恥ずかしがっていることが損なように思えてしまった。
「サクラ」
 困ったような顔のまま、近づいてきたライダーが私を呼びかける。
「その、すみません」
「いいのよ、ライダー。すごく恥ずかしかったけれど」
「あー、すみません……」
 長身の彼女の姿が今はすごく小さく見える。申し訳ない、というオーラを全身から放っているような、そんな雰囲気だった。
「ねぇ、ライダー」
「……はい」
 まだしょぼんとしているライダーの返答を待って、微笑みかけながら続ける。
「心配してくれてありがとう。私、先輩と、みんなと一緒なら、これからも大丈夫だと思うから」
 驚いたような表情から、いつもの柔和な笑みを浮かべるライダー。
「それは良かった。サクラがそう言うのであれば、大丈夫なのでしょう」
「ところで、なんで姉さんと藤村先生を止めてくれなかったの?」
 そう、それはそれ。これはこれ。恥ずかしくて死にそうだったのは事実なので、そこはマスターとして聞いておかねばならなかった。
「う、あ、そ、それはですね。。。」
 弁明を挟みながら身振り手振りで慌てるライダー。遠くではまだ先輩と藤村先生、姉さんが言い争っている。
 ふと、拝殿に目をやると、格子戸の奥からご神体が優しそうな目で見つめていた。

終